
世界に名をとどろかせるオランダの有名DJたち
イギリスの音楽雑誌『DJ Mag』が毎年発表している人気DJランキング「Top 100 DJs」によると、2024年はオランダ人のMartin Garrix(マーティン・ギャリックス)が首位となりました。6位にはArmin van Buuren(アーミン・ファン・ブーレン)、7位にAfrojack(アフロジャック)がランクインしており、トップ10のうちオランダ人が3位を占めています。 ほかにも11位のHardwell(ハードウェル)、15位のDon Diablo(ドン・ディアブロ)、18位のR3HAB(リハブ)、21位のW&W、23位のTiësto(ティエスト)など、オランダは世界に名だたるDJを続々と輩出しており、EDMファンたちの間では「DJ大国」として知られています。

中でもティエストは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、トランスミュージックでシーンを席巻し、世界的な成功を収めたDJ
のパイオニアです。DJといっても、単に音楽を選んで流すだけではなく、作曲や編曲も手掛けるプロデューサーでもあり、彼は2004年のアテネオリンピックの開会式でプレイし、DJとしての地位を確立しました。後に続く若手DJに多大な影響を与えたほか、現在も世界ランキングで上位にランクインし続けるレジェンド的な存在です。
そんなティエストに憧れてDJになったマーティン・ギャリックスは、2013年に若干17歳でリリースした「Animals」が大ヒット。数々の世界的なダンスフェスティバルで一躍世界的スターとなり、2016年には自分のレコードレーベル「Stmpd Rcrds」も立ち上げています。

先進的なダンスフェスティバルとクラブ文化の中心地
世界のトップDJを次々と生み出してきたオランダでは、1980~90年代にかけて「テクノ」や「ハウス」といわれるEDMが人気を博し、フェスティバルの文化が発展しました。アムステルダムやロッテルダムには多くのクラブが誕生し、国際的なアーティストを迎えながら、国内の若手DJが腕を磨く場となってきました。
特に毎年10月にアムステルダムで開催される「Amsterdam Dance Event(ADE)」は、世界最大級のEDMフェスティバルとして有名です。市内に数多く存在するクラブで5日間にわたってさまざまなダンスイベントが開催されるほか、世界的なDJや業界関係者が集まるビジネスカンファレンスでもあり、毎年約40万人が参加します。ほかには、毎年野外で開かれる「Mysteryland」や「Awakenings Festival」なども大規模なフェスティバルとして定着しています。

ちなみに、こうしたイベントも近年はサステイナブル(持続可能)であることが意識されており、オランダはこの点でも世界をリードしています。例えば、Mysterylandではすべてのエネルギーを太陽光などの再生可能エネルギーで賄うほか、飲食に使われるコップや皿はすべて生分解性のものを使用しています。また、Awakenings Festivalでもカップなどの資源は分別回収・リサイクルしており、飲食コーナーのメニューはベジタリアンのみ。また、シャトルバスや駐車場料金の一部を植林事業に寄付するなど、環境への負担を極力減らす施策を採っています。
EDMはオランダの文化輸出産業
毎年何十万人ものファンが集まるオランダ発のダンスフェスティバルや、有名DJ・プロデューサーが発信するEDMは、国内外で巨大な市場を形成しています。特に有名DJによる著作権や国外でのライブパフォーマンスの収益は大きく、音楽著作権団体「Buma Culture」の報告によると、2024年のオランダの音楽輸出額は、過去最高の2億2000万ユーロ(約350億円)相当に上りました。EDMは世界的な影響力を持つオランダの文化輸出産業ともいえるのです。
この産業の中で、オランダの音楽レーベルも世界市場で重要な役割を果たしています。「Spinnin’ Records(スピニン・レコード)」、「Armada Music(アルマダ・ミュージック)」、有名DJのハードウェルが立ち上げた「Revealed Recordings(リヴィールド・レコーディングス)」 などのレーベルは、世界中のアーティストと契約し、オランダ発の音楽をグローバルに発信。才能ある若手DJを発掘し、世界的な成功へと導く役割を果たしています。

DJは憧れの職業、教育も充実
そんなオランダにあって、DJは単なる趣味ではなく、立派な職業です。子供たちにとってもDJは憧れの職業となっており、オンラインのアルバムメーカーである「Vriendenboek.nl」が小学校のグループ8(日本の小学6年生)対象に行った調査によると、男子の「将来就きたい職業」でDJは8位にランクインしています。
子どもたちの夢を実現させるべく、オランダにはDJや音楽プロデューサーを育成するための専門学校も充実しています。代表的なのは、ユトレヒトにある「Herman Brood Academy(ヘルマン・ブロード・アカデミー)」。ここでは、プロのDJや音楽プロデューサーになるための技術や音楽理論を学べます。トップDJのマーティン・ギャリックスも一時ここに在籍していました。
ほかにも「Pioneer DJ School」や「SAE Institute Amsterdam」も、初心者からプロを目指す学生まで幅広く受け入れており、多くのDJがここでスキルを磨いています。また、子供たちが通う地域の音楽教室には、ピアノやバイオリンやギターといった楽器のレッスンに並んで、「DJコース」が用意されているところも珍しくありません。
オランダが世界的なDJを次々と輩出する背景には、ロールモデルとなる有名DJがたくさんいるほか、豊かなクラブ文化、先進的なフェスティバル、充実した教育環境があります。未来のスターDJたちは、この恵まれた環境の中で才能を磨き、世界へ羽ばたいていくのです。