意外と控えめなオランダのバレンタインデー、贈り物に人気のアイテムは?

日本とは一味違うオランダのバレンタインデーは、どのように祝われているのでしょうか?

2月14日が近づくと、オランダのデパートもバレンタイン用商品をディスプレイ

バレンタインデーが迫る頃、日本ではさまざまなチョコレートが商店の軒先を飾っています。好きな男子にチョコレートを贈ろうとドキドキしている女子学生も多いことでしょう。

オランダでもバレンタインデーに贈り物をする人はいますが、必ずしも女性から男性にチョコレートをプレゼントするわけではありません。しかも、この日にプレゼントを贈る習慣自体、意外と最近根付いてきたことなのです。

日本とは一味違うオランダのバレンタインデーは、どのように祝われているのでしょうか?

「バレンタインデーはナンセンス」

2月14日が近づくと、オランダでもデパートなどの商店の軒先には、赤やピンクのハートで彩られたディスプレイが目立ちます。チョコレートやシャンパンといった食品のほか、香水などの化粧品や衣服、アクセサリーなど、男女を問わず「愛する人に贈るプレゼント」のアイデアで溢れています。

オランダ発のスキンケアブランド「Rituals(リチュアルズ)」の店頭。男女を問わず、贈り物のアイデアを提示しています。

しかし、調査会社「Motivaction」が15-70歳のオランダ人1,540人を対象に行った調査によると、バレンタインデーを祝う人は約30%にとどまっており、69%の人が「バレンタインデーは商業的なナンセンスだ」と考えていることが分かりました。他国のトレンドに乗って、容易に財布の紐を緩めないオランダ人の堅実さが垣間見られる調査結果です。実際にこの日を祝う人でさえ、約半数が同様の意見を持っていることが判明しています。

そんなちょっとシニカルな意見からか、バレンタインデーの贈り物の平均額は約15ユーロ(約2,400円)。カードだけを贈る人も大勢います。

オランダの花屋は大忙し

そんなオランダのバレンタインデーで定番の贈り物といえば、生花です。園芸大国のオランダでは、バレンタインデーに限らず、誕生日や記念日などのお祝い事に花は欠かせません。

フランスやイギリスといった欧米諸国では、バレンタインデーに赤いバラを贈るのが定番だそうですが、オランダでは「いつも通りに」いろんな花が入ったミックスブーケが人気です。最近は物価高の影響で、ブーケも値上がりしていますが、オランダでは15ユーロも出せば立派な花束が買えるのです。

園業市場の生産者協同組合「ロイヤル・フローラホランド」によると、2月初旬の数週間は、1年のほかのどの時期よりも多くの花が売れるそうです。オランダ全土の花の売り上げは、通常の8,000万ユーロ(約127億円)から1億2,500万ユーロ(約200億8300万円)に跳ね上がります。

街のマーケットに出店している花屋。バレンタインデーはバラに限らず、チューリップなども人気です。(写真を差し替えるかもしれません)

 

授業中に届くバラ

ティーンエイジャーにとって、バレンタインデーがときめきの1日であることは、オランダでも共通です。オランダではなんと、多くの中高校(オランダの教育システムでは、中学と高校は一貫校)で、生徒会が校内でバラを販売します。学生たちは事前にバラを注文し、贈りたい相手の名前を知らせます。

バレンタインデー当日――。授業中に教室のドアが開き、生徒会の学生が「〇〇さんに」と言って、バラの花を届けます。その際、送り主の名前は知らされません。誰からのプレゼントでしょうか?心当たりのある人もない人も、ドキドキする瞬間でしょう。

しかし、毎年バラをもらえない学生も大勢います。中には惨めな気持ちになっている子もいるかもしれません。そんな学生たちに配慮し、生徒会が学校の補助金でバラを買い、全校生徒に1本ずつバラを配ることにした学校もあるそうです。また、先生のアイデアで、クラス1人1人のパーソナルなコメントが入ったカードを全員が受け取れるようにしたところもあるとか。バレンタインデーでも「インクルーシブ」を重視する、オランダらしいアイデアです。

バレンタインデーの花束

 

オランダの国民的チョコレートに込められたメッセージ

さて、生花とともにオランダで贈り物の定番といえばチョコレートです。花束と同じく、チョコレートもバレンタインに限らずいろいろな場面で活躍しますが、この時期はやはりハート形や、バレンタイン用の特別パッケージの商品が並びます。

オランダで大人気のチョコレートといえば、「トニーズ・チョコロンリー」。カラフルでポップな包装紙で包まれたその大きな板チョコは、スーパーマーケットの棚でひときわ目立つ存在です。人気の理由は、楽しいパッケージデザインや豊富な味のバリエーションにもありますが、実はその設立の背景にあるストーリーや「チョコレート業界におけるカカオ農家への搾取をなくす」という企業理念にもあるのです。

「トニーズ・チョコロンリー」のミルクチョコレートの定番パッケージ(左)とバレンタインデー・バージョン(右)

創業者のトゥーン・ファン・デル・クーケン氏(通称トニー)は、元ジャーナリストでした。彼はドキュメンタリー番組を作る中で、西アフリカのカカオ農場における子どもたちの奴隷労働の現実を知って愕然とします。その後は業界大手に働きかけ、奴隷労働のない原料調達を呼びかけますが、どこにも相手にされなかったため、自らチョコレートメーカーを立ち上げたという背景があるのです。

トニーズ・チョコロンリーは、2005年の登場以来、オランダの市場を席巻し、現在は同国の板チョコ市場でシェア17%を誇るトップブランドに成長しています。また、現在はドイツ、イギリスなどの近隣諸国のほか、アメリカや日本など、世界市場でも知名度を高めつつあります。

バレンタインデーをサステイナブルに

トニーズ・チョコロンリーの板チョコ(180グラム)は1枚3~4ユーロ(約500~600円)程度で安くはありませんが、これも農家と公正な価格で取引しているためです。同社は製品がどこでどのように作られ、どのように消費者に届くのかを追跡できる「トレーサビリティ」を重視しており、農家との長期的で強力なパートナーシップを築くことをモットーとしています。

これらの原則をもとに独自に開拓された「トニーズ・オープン・チェーン」というサプライチェーンは、他社にも公開されており、カカオ農家への搾取や児童労働、環境破壊をなくすという目的のために、チョコレート業界全体を巻き込むことを目指しています。

トニーズチョコロンリーの板チョコの包み紙を開けると、「これはただの板チョコではありません。これはインパクトです」とのテキストが現れます。そして、そこにはトニーが板チョコのパッケージを赤くして、西アフリカにおける奴隷労働が今も続いていることに警鐘を鳴らしていることが説明されています。

トニーズチョコロンリーの包装紙の裏と板チョコ。チョコレートの割れ目が不均等なのは、カカオ取引の不平等を象徴しており、ここにも「不平等をなくすために行動しよう」とのメッセージが込められています。

純売上高の1%は、西アフリカの子供たちのためのプロジェクトなどに充てています。その徹底した経営姿勢に対する消費者の評価は高く、ヨーロッパ最大のサステイナブル・ブランド調査である「サステイナブル・ブランド・インデックス」で、同社は2024年も前年に引き続き「オランダで最もサステイナブルなブランド」に選ばれました。

オランダでは、サステイナビリティに対する意識の高まりから、近年はトレーサビリティを重視し、カカオ農家と適正価格で取引をするチョコレートメーカーも増えてきました。日本ではチョコレート一色になるバレンタインデーの時期、皆さんも少し意識的にチョコレートを選択してみるのはいかがでしょうか?